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新しい私へ
伊藤ヒナ
彼女は私の青春の全てといって等しい。それ程までに彼女に全てを捧げた。
7歳で鮮烈な子役デビューを果たしたその子は今もなおデビュー作がテレビ史の一部として特番で取り上げられている。
そのドラマ「ひなの中に」は幼くして、難病を患い闘病生活を余儀なくされる少女ひなが自身の不遇をものともせず明るく、健気に、家族との時間を過ごすありきたりだが万人受けする感動のドラマ。
伊藤ヒナはその主人公として役を見事に演じ切った。だが逆にこうも言える、あまりにも役になりきり過ぎた。
その後ドラマや映画に引っ張りだこになるも与えられる役は全て不遇な環境に身を置きながらも明るく振る舞うようなものばかり。
明らかに「ひなの中に」を意識した役。だが当初、伊藤ヒナは気にしていなかった、役を貰えるだけで嬉しかったから。
学校では先生も、同級生も、みんな褒めてくれて、あまり登校出来ていないにも関わらずいつもクラスの中心にいた。彼らは伊藤ヒナと役の“ひな”を同一視していた。そのため彼女は“ひな”の様に振舞った。
彼女を見れば、みな声を揃えて言うのだ、「ひなちゃん」と。そしてこう思うのだ、明るく元気で逆境に負けない強い子なのだろうと。
彼女は演じ続けた、映像の中で、また現実でも、小学2年から高校2年までを子役として、1人の女優として。
そして彼女は高校2年の夏。学業に専念すると発表し、突如表舞台から姿を消した。そしてそれ以降伊藤ヒナが現れることはなかった。
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