銀杏並木に想いを寄せて

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「逢坂探偵事務所、所長…藤堂誠、さん?」 「はい、そしてこちらが私の助手です。」 言いながら藤堂は少しだけ場所をずらして、後ろの女性が会釈をした。 「七瀬静香です。」 彼女は表情を全く崩さないが、はっきりしていることがある、それは息を呑むほどの美人であるということ。 長く真っ直ぐな黒髪は耳に近い部分だけ短く切りそろえられていて、着物でお茶でも立てていたらとても映えるであろう。 そして形の良い唇から発された声は凛としていて耳に心地よい。 藤堂もよほど端正な顔立ちをしているが、一度七瀬を見ると彼女にしか目が行かなくなってしまう。 女の自分から見てもそうなのだから男性なら尚更だろうと思う。 七瀬から目が離せないでいると、私と彼女の間に藤堂が割って入った。 「それで木ノ下さん、少しお伺いしたいことがあるのですが。」 「は、はい。何でしょう…。」 声をかけられ我に返る。そうだ、探偵がくるなんてただ事じゃない。 想像にあるのは事件や事故など悪い事象ばかりだ。 不安に思っていると、藤堂がこちらの不安をかき消すようににこやかに微笑んだ。 「そんなに身構えないでください、私共は噂の真相を確かめに来ただけなのです。」 「噂、ですか…?」 探偵が気にするような噂がこの辺りに流れていただろうかと首をひねる。 藤堂は我が家をぐるりと見渡して、勿体ぶるように口を開いた。 「この家、幽霊が出る、そうなんです。」
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