蠱刑

3/8
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「お連れ様? 見ていないですねえ」 食堂で従業員に聞いてみたが、知らないようだった。 一人で朝食を摂り、ぶらぶらと館内を回る。休憩所や風呂場にも彼の姿はなかった。 何気なく玄関を通った時、ふと下駄箱が目に入った。彼の靴が見当たらない。 思わず玄関から外を見ると、真っ白な雪の上に足跡が残されている。 雪が積もったら絶対にあの神社に行ってはいけない。 女将のその言葉が思い出された。 禁止されるとやりたくなる。笹井はそんな性格だった。 恐らく、一人で虫山神社に向かったのだろう。 自販機で缶コーヒーを買い、部屋に戻った。 そのうち戻って来るだろうと思い、持ってきた本を読み始めたが文章が頭に入ってこない。 ストーブの心地良い暖かさが眠りを誘う。次第に意識が遠のいていく。 手から本がずり落ちた衝撃で目を覚ました。 どうやら知らない間に寝入ってしまったようだ。 それにしても笹井はまだ戻ってこない。 流石におかしいと思い、着替えて玄関へと向かった。 振り続ける雪で笹井の足跡は消えつつあったが、まだうっすらと残っていた。 その足跡を追って、私も虫山神社へと向かった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!