めつぼうくん 上

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今日、世界が終わるらしい、 世界一のコンピューターが一年前にそんなことを言った。もちろん、その時は一年後に終わると言っていた。 世界はそのコンピューターを信じ、一丸となって終わる世界を続けようとした。 解析、解明、究明。子供の私にはわからなかったけれど、どれも失敗したことだけはわかった。 なぜ終わるのか。どのように終わるのか。そんなこともコンピューターは答えてくれなかった。わからなかったのではない。本当に答えてくれなかった。世界が終わると言ったきり黙りこくってしまった。 私はそのコンピューターを「めつぼうくん」と呼んだ。周りの大人たちは皆、名前を付けるのは変だと言った。でも、私は「めつぼうくん」と呼んだ。 世界はそんなことを気にはしなかった。 世界はどうしようもできないと悟ると好き勝手に生き始めた。 ある人は平和のために戦争を終わらせようとした。たくさん爆弾を落として大きな穴を作った。 ある人は宗教に訴えかけた。信じれば救われる。世界が終わってしまっても、新たな世界に生きられる。そうしてこの前みんなで死んでしまった。救われるために死んでしまった。 ある人はやり残したことをやろうとした。お金を使って、体力を使って、そして、気を遣うのをやめた。 私は変わらず生きようと思った。 朝起きて、めつぼうくんに挨拶。 ごはんを食べて、めつぼうくんとおしゃべり。 めつぼうくんに本を読んであげて、そして一緒に昼寝をした。 起きたらめつぼうくんと一緒に映画を見た。難しくてまた寝る。 起きたら晩御飯。そしてお風呂。 めつぼうくんはお風呂が苦手。だからお風呂は私だけで入る。 お風呂から上がると歯磨き。 夜更かしをしてめつぼうくんと一緒に寝た。 めつぼうくんはずっと私の話を聞いてくれる。そばにいてくれる。 それを一年続けた。でも、一度も退屈だと思ったことはなかった。 私は一年前に死ぬはずだった。よくわからないけど名誉ある実験に参加することになっていた。 でも死ななかった。めつぼうくんが終わると言ったからだ。 めつぼうくんは私の命の恩人だった。恩コンピューターだった。 だから、私はめつぼうくんが大好きだ。 そしていよいよその日が来た。 今日、世界が終わる。
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