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私は走り出した。
左手に持ったバケツが揺れる。
中のめつぼうくんも揺れる。
私はめつぼうくんをバケツから出して、右手で抱えて走った。
海はまだ見えない。この世界のどこからでも見える海はまだまだ見えてこない。
セカイハ、イチネンゴニオワリマス
紅い太陽が眠ってしまったら、地球ももう起きるのをやめてしまう。右手に抱えためつぼうくんの言葉が揺れる頭で回りだす。
やっぱり嘘だったの。物語は物語で、海は作り話だったの。
私が作り出す風の音。その中でしょっぱい水が混ざりだす。
のどの疲労は何から来るものなのかわからなくなってしまいそうだった。
私は走るのをやめた。へたり込んで風を止めた。空も地面もきれいなほど紅い。
「モウチョットダヨ」
右手に抱えためつぼうくん。一年ぶりの目覚めから覚めためつぼうくんは、私の目を丸くさせた。
「モウチョットデ、ウミ」
ひょろひょろと立ち上がりゆっくりと前へ進む。そして、それは突然現れた。
見渡す限りの水。空との境目がわからないほどたまった水がそこにはあった。
これが海。これが海だった。
物語で聞いていた通り。使い切れないほどの水たまり。
たった一つだけ、物語とは違う。
紅い水たまりだった。
「紅いね。めつぼうくん。」
「アシタニハ、アオクナル」
「海ってそういうもんなの?」
「ウミッテソウイウモンナノデス」
「でも、明日なんかないよ。」
「アル」
「嘘」
「アリマスヨ」
「めつぼうくんが今日で終わるって言った。」
「ウン」
「だったら無いでしょ?」
「デモ、アナタハナマエヲクレタ」
「名前?」
「タダノキカイダッタワタシニ」
「めつぼうくん?」
「ダカラ、チキュウハツヅク」
「どういうこと?」
「ワタシハチキュウヲ、ナクソウトオモッタ。ダケド、アナタガナマエヲクレタ。ソレダケデ、イキルイミガウマレタ。」
「私が地球を救ったの?
「ソウデス」
「変って言われたのにね」
「ソウデスネ」
「めつぼうくんっておしゃべりなんだね」
「ソウデスカ」
「そうですよ」
紅い地球はすっかり夜。明日、何を話そう。
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