第二章 咲希-さき-

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到着して五分くらい経っただろうか。 見慣れた家から、見慣れた彼女がいつものカバンを持って出てくる。 いつもはだいたい十分くらい待たされるので、今日は早いほうだ。 車の中で待っている僕に、彼女は近づき話しかけてきた。 「いつも待たせてごめんね。でも、今日はいつもより早かったでしょ?」 彼女は笑顔で助手席に乗ってきた。彼女の左手薬指には、僕の渡した婚約指輪が輝いている。 彼女は、笑うと頬にえくぼができる。そのえくぼを見る度に、僕の心は癒されていた。 そう、僕が来年結婚する相手は咲希だ。中学で出会い、母以外で初めて僕を一人の人間として認めてくれた女性。 ずっと友達同士だったが、高校卒業と同時に付き合い始め、付き合って十年目の記念日に婚約指輪を渡してプロポーズした。
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