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昭和六十年二月十三日。
時計の針は深夜二時を過ぎた頃、小さな漁師町の小さな産婦人科で産声をあげる一人の赤ん坊がいた。それが、僕だ。
後々、母に聞かされることになるが、難産だったそうだ。
腹の中で臍の緒が首に巻きつき、窒息死寸前だったらしい。まるで自分から産まれることを拒んでいるようにも感じたと母は言っていた。
僕が無事に産まれるには、帝王切開をするしかなかった。母の下腹部には、僕が物心ついた時から帝王切開の跡が残っていた。
産まれてからは健康そのもので、よく泣き、よく笑う赤ん坊だったらしい。
母が僕の掌に人差し指を置くと、力強くギュッと握り締めながら微笑んでいたそうだ。
名前は、永笑と名づけられた。
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