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何となく、じゃ、駄目だったのだろうか。
彼は首を傾げた私をちらりと見て、言い訳でもするかのように言う。
「いや、何となくでも良いんだけど。でもどうせならさ、嘘でも『会いたくなっちゃったから』とか言って欲しかったなー、なんて、思っちゃって」
古い電子レンジの中で、牛乳を入れたマグカップが電球に照らされてくるくる回る。
彼がそんなことを考えているとは思わなかった。
いつもクールで頼りがいがあって、私が笑って欲しいに笑顔を見せてくれて、近づいてくる他の女を慣れた様子であしらって。
私より明らかに「恋愛慣れ」していると思っていた。というか、事実、彼の方が圧倒的に経験値が高い。なのに、何というか、
「…かわいい」
「は?」
「あ」
頭の中の言葉が口から漏れてしまった。真顔で呟いた私は、思わず口を手で塞いだ。彼は、驚き半分、恥ずかしさ半分、のような顔だ。
「いや、だって、いつも嫉妬とかするの、私だけじゃん。…翔がそんな風に思ってたんだなって思ったら、なんか、かわいいなって」
言い訳がましくごにょごにょと言う。
「えー、酷いなぁ」
冗談めかして言いながら、彼が電子レンジからマグカップを取り出し、ココアを溶かす。静かな夜の部屋に、カチャカチャというスプーンの音が散る。
暫くその音だけが聞こえた後、彼が口を開いた。静かな声だった。
「俺だって嫉妬はするよ」
「え?」
「そりゃするでしょ。かっこ悪いかなと思って、隠してたけど。本当は、お前が他の男と話してるのとか見ると、まぁ…めっちゃ妬いてる」
彼は自嘲気味に笑いながら歩いてきて、コト、と私の前にココアを置く。私が来るまで飲んでいた自分の缶コーヒーも一緒に持ってきて、ちゃぶ台に並べた。
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