2人が本棚に入れています
本棚に追加
窒息しそうなほど長いキス。
口が自由になった瞬間、私は彼に向かって溜め込んだ言葉をぶつける。
「どうしたの、ねぇ、翔、おかしいよ?もしかして、私が言ったことで怒ってる?」
かわいいって言ったのがそんなに気に入らなかったのか。いや、それにしたって、怒りをこんな形で表すような人じゃないし。何となく来たって言ったのが嫌だった?それとも、私が気づいていないだけで、何か怒らせることをしただろうか。
彼は答えない。無表情で私を見下ろし続ける。理解できない苛立ちがつのる。
「ねぇ、何か言ってよ、ねぇ」
それでも彼は無言のまま。ただ真っ直ぐ、私と目を合わせるだけ。こちらがどれだけ睨んでも、その瞳は揺らぎもしない。
怖い。嫌だ。逃げたい。
苛立ちはとうに消え、新たに私が感じたのは、今まで彼に感じたことのない種類の感情だった。
「は、離して、翔、怖い」
彼の手を振りほどこうと腕に力を込めても、体重をかけて押さえつけられているせいでほとんど動かせない。身体も同様。馬乗りになられた時点で、私は身動きが取れないのだ。
自分の無力感に涙すら出てきそうになった頃だった。
「……どう?」
突然彼が口を開いた。
「え…」
どう?って、何が?
困惑して彼の顔を見上げる。無表情なのは変わらない。
「あやめ、最近、忘れてたんじゃない?まぁ、甘やかしすぎた俺も悪いけど」
「何、を…?」
「俺が、男だってこと」
そう。多分私は少し忘れていた。そして今、痛感した。翔が男だということを。
自分の都合のいいように話を聞いてくれる、自分の思い通りになるものだと、私は愚かにも勘違いをしていたらしい。
最初のコメントを投稿しよう!