踏切穴の雄一

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踏切穴の雄一

 不思議なもんだ。  こんなにデカい音で鳴ってるのに。  カン、カン、カン、カン、  踏切。  うるせえなあ。  でもこの音じゃ起きねえんだ。  起きるのは女の声だ。  キ〇ガイ女の声。  何もあんなにわめかなくても。  わめき散らしてる。  朝から。  わめき女。  誰がどう見ても完全に池沼(知的障碍者の俗称)なのに、なんで放し飼いにするかな。  あれ、今に電車に轢かれると思うんだが。  でもそう思ってもう五年以上経つからな。  いや十年か。  よくわからん。  しかしわめき女のお陰で俺は目覚めることができる。  ベッドで目覚めた俺は、おもむろに身体の向きを変える。  頭と足の位置を入れ替えると、目の前にちょうど塩ビ管があるのだ。  俺が開けた覗き穴。  そこに差し込んだ塩ビ管。  覗く。  いたいた。  わめき女。  踏切を待ってる。  わめいてる。  ひっきりなしに。  電車が通過し、遮断機が上がる。  おかしな格好でひょこひょこと歩き出す。  幼稚園児が持っているような布の袋を持ってる。  わめき女はどこへ行くのだろう。  学校なのか。  いや、学校へ行くような歳じゃない。かなりのおばさんだ。  てことは仕事へ行くのか。  あんな池沼で、何の仕事ができるのか。  どうせ何かの施設で、税金が使われているに違いない。  俺達の税金が。  といっても俺は税金なんか払っちゃいないが。  そんなもの払えるか。  俺は自由人だ。  仕事もしねえし、税金も払わねえ。  使いもしねえ。  俺は税金を使ってねえ。  湯水のように税金使ってる池沼とは違う。  地球視点の究極のエコロジー。  それが俺という存在。  自由人が自由人たるゆえんだ。  わめき声。  わめき女の顔が笑ってる。  そこが怖い。
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