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俺は穴に刺さった塩ビ管から右目を離し、改めてベッドに寝転がった。
脳裏に、マルちゃん。
背筋が伸びて、色白で、にっこり。
目尻が下がるの。
マルちゃんの目尻。
ふにゃっと。
笑うとふにゃっと。
そのふにゃっとは。
マジ天使。
マルちゃん。
瞼の裏にマルちゃん。
はっきりとマルちゃん。
俺はお〇んちんを触ってみる。
脳裏にマルちゃん。
手にお〇んちん。
暖かい。
しかし。
大きくなる気配はない。
ちょっとしごいてみる。
でもだめ。
その気になる気配がない。
マルちゃんでもだめか。
だめなのか。
パタン、と乾いた音。
家から誰か出て行った。
玄関が閉まる音。
俺はまたおもむろにベッドの上で塩ビ管に右目を付ける。
自転車に乗った老婆。
片足乗りをして、のろのろと踏切を渡っていく。
母親。
俺の母親。
俺の同居人。
二人暮らしの、同居人。
同居人の外出を確認。
同居人はパートに行く。
お掃除のパートらしい。
年金もあるのに。
ご苦労なこった。
働くのが好きなんだなたぶん。
いや感謝はしている。
母親には感謝している。
中学2年当時からずっと口をきいてはいないが。
その頃から俺はこの部屋から出なくなった。
その頃はまだ父親という同居人もいたのだが。
今はもういない。
死んだのか。
死んだらいくらなんでも言うだろう。
出て行ったのだ。
この家が嫌になったのだ。
毎日毎日朝から晩までカンカンカンカン踏切の音だけが鳴り響くこの家が。
そのうち母親もいなくなるだろう。
そしたら俺は野垂れ死ぬ。
ようやく、晴れて、野垂れ死ぬ。
何週間か後に発見されるだろう。
餓死した俺。
発見するのは警察官だ。
異臭がして通報を受け、警察官が踏み込んでくる。
そして発見される。
遺体は死後数週間が経っており、腐臭がしておりました。
食べ物は何もなく、水道も止められ、電気も止められ、残っていたお金は数十円でした。
現代のサバイバル。
でもそんなこと、ニュースにならないかもしれないな。
いいじゃないか。
死んじまってからのことなんか。
どうでも。
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