踏切穴の雄一

4/17
前へ
/17ページ
次へ
 わーーーーっ。  複数の大声。  耳に障る。  歓声とは違う。  微妙な声。  喜んでいるのではない。  しかし悲しんだり怒ったりもしていない。  驚きと恐れと、興奮が入り混じった声。  俺の耳に刺さってくる。  また塩ビ管を覗く。  ガキ共。  小学生のガキ共。  遮断機が上がって、駆け抜けて来る。  二十人くらいの集団。  我先にと走って来る。  叫び声を上げて。  何かから逃げるように。  中には後ろを心配そうに見る女子もいる。  そこに一人残されている。  踏切の向こう側。  取り残されている。  やせっぽち。  やせっぽちで半袖。  もう11月なのに、半袖の男子。  日本人じゃないのか。  外人か。  ブラジル人か何かか。  見上げている。  上がっていく遮断機の棒。  その先。  何かがぶら下がっている。  袋。  布の袋。  給食袋か。  棒が上がって、一番上まで行ってしまった。  見上げている。  半袖男子。  やせっぽち男子。  手が届かない。  遮断機が下りなければ取れない。  ひどいことをする。  踏切のこちら側。  デカい男子。  赤いダウンのジャンパー。  ドヤ顔。  すごいね。さすがだね。やばいね。  周りの背の低い男子達が口々に。  デカい男子に羨望の眼差しを送る。  更にドヤ顔のデカい男子。  行ってしまう。  羨望の眼差しを引き連れて。  集団が去っていく。  残されたやせっぽち。  踏切の向こう側で。  高く上がった給食袋を見上げている。  ただ見上げている。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加