また会えるならば、この喜びを、この祝福を

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また会えるならば、この喜びを、この祝福を

一軒家、二階の窓の外、近くの木々で蝉が鳴いている。  うっすらと目を開ける。枕元に置いてある端末の充電は一〇〇パーセントになっており、大きく画面に映るデジタル時計の時刻は八時十二分を示していた。  大きな伸びをして、俺は布団をひけらかして起き上がる。  付けっぱなしのテレビからの天気予報で、今年は猛暑日になるとの情報が俺の耳に入って来た。昨年よりも五℃近く上昇しているようだ。最低気温でも、ここ一ヶ月で二十℃を下回ることは無いとの事だった。  階段を降り、欠伸をしながら髪を整える。  父譲りのくせ毛だ。夏場は湿気で整えにくいし、朝は少し嫌気がさす。 「……あ、まこちゃんおはよ!!」  先に起きていた母さんが、食べかけのパンを片手に持ちながら駆け寄ってくる。  綺麗な赤色の瞳をした、俺の母さん。いつ見ても可愛いし、何処へ行ってもはしゃぐ母さんは、言うなれば子供のような存在だった。 「おはよう母さん。いいからそれ食っちまえよ……」 「連れないわねぇまこちゃんったら、いいわ、今日はお母さんお留守番してますから」 「悪かったよ母さん……」  もぐもぐとパンを食べながら、母さんはまたソファに座ってニュースを見始めた。  出かけるのが大好きだった俺の母さんは、決まって休日、祝日のどれかに必ず俺を連れて出かける。  そして今日も、今現在出かける準備をしている。が、今日連れていくのは母さんではなく、俺が母さんを連れていく約束をしていた。 「まこちゃん、今日はどこ行くの?」 「とある所だよ」  俺が行きたい場所は多少遠くにある。  なんでもかんでもいきあたりばったりで、行くところも毎回毎回気まぐれな母さんが提案するのはそう珍しい事でもない。  だがほとんどは俺の行きたい所に行っている。母さんも母さんで、俺の提案した所に行けば子供のようにはしゃいでいた。
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