ポケットのひときれのパン

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みなさんにとって大切なものは何ですか?お金、健康、若さ、家族、どれも大切ですね。そのどれ1つも持っていない人がいます。 そんなおじいさんのお話をしましょう。 春まだ浅い寒い朝です。ひとりのおじいさんが、仕事へ行くために歩いています。 細い小路を歩いていると、何かが付いてくる気配がします。 去年の今頃、この辺りでゴミの中から食べられそうな物を探していたネコを見たおじいさんは「ネコかな?寒いのに可哀想に、お腹も空いているだろうに」 おじいさんはポケットの中のパンをひときれ道の端にそっと置きました。 夕方仕事が終わり、小路を通ると朝置いたパンがなくなっていました。ネコが食べたのだろうと、またポケットの中のパンをひと切れ置いて帰りました。 おじいさんにとってポケットのパンは大切な物です。 年をとり、目も薄くなってぼんやりとしか見えません。白内障という年を取るとなる病気です。 おじいさんは、自分で生活していくために退職した後も組紐を作る作業所で働いていますが、安い賃金しかもらえず、生活はそんなに楽なものではありません。 組紐を作る仕事は、子供の頃父親の仕事を見て覚えました。それで、目が霞んでいても上手に作ることができました。
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