ポケットのひときれのパン

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おじいさんには家族がいました。でも、おじいさんが戦争から帰って来ると、両親と奥さんと赤ん坊だった娘は空襲で命を失っていました。おじいさんは焼け野原になった町の自分の家があった所で、ぼう然と立ちつくしていました。 その後も結婚はしませんでした。戦争で亡くなった奥さんと子供を忘れることなど出来なかったからです。 その時から、おじいさんはずっと一人で暮らしてきました。 おじいさんは仕事の行き帰りに小路の道端にポケットの中のパンを置き続けました。自分も一人で生きているので、ネコも生きていくのに精一杯なことを知っていました。 やがて春まだ浅い季節は流れて、夏が過ぎ、秋になりました。 道端に置かれたパンはいつもなくなっていましたので、おじいさんは満足でした。可愛そうなネコがそれを食べて生きていると思うと、うれしかったからです。 秋になると、日が暮れるのが早くなります。 おじいさんが帰る頃には、外は薄暗くなっています。 目が霞んで見えにくいおじいさんが信号のない横断歩道を渡ろうとした時です。 すごいスピードで車が走ってきました。目の悪いおじいさんは、車が来ていることに気がつきませんでした。
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