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「一生のお願い」
何度目だろう。親友の彼女は私の前で手を合わせる。彼氏と一緒に帰りたいから、掃除当番を代わってほしいと懇願された。私だって早く帰りたかったし、昨日掃除当番をやったばかりだ。一生のお願いなんて一生に一度しかできないはずなのに、彼女は何度も一生のお願いを使う。それでも友達の頼みは断れない。承諾すると彼女は悪びれることなく、階段を駆け下りていった。私は階段をほうきではきながら、降りていく。二階まで降りていった時、窓の外に彼女が彼氏の腕を掴んで下校する姿が見えた。
私だって本当はその彼氏が好きだった。でも親友の彼女が先に告白して付き合うことになった。どす黒い感情に支配されそうになって慌てて頭を振って冷静さを取り戻そうとした。掃除を終えてため息をつくと急いで学校を後にした。
「ちょっと待ちなさい」
呼び止める声に私は家に向かう足を止めた。
膝に猫を抱えた老婆が手招きしていた。猫が好きだった私は思わず老婆に近づいていった。
「かわいい猫ですね」
そう私が言うと老婆はにっこり笑って「さわってみなさい」と言った。私がさわると猫はゴロゴロと喉を鳴らした。
「あなたのことが気に入ったみたいだ」と老婆は微笑んだ。
私は老婆のとなりに座り、猫を撫でながらいつのまにか親友に対する不満を話していた。老婆は頷きながら、それをきいていた。
「何度も一生のお願いをされるのが嫌なんだね。じゃあ、次に一生のお願いをした時に、彼女の心臓が止まるようにしてあげよう」
私は驚いて老婆を見た時、笑みを浮かべながら、すっと老婆は消えていった。猫だけが所在なさそうに鳴いていた。
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