先生の診察日

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私には持病がある。そして、その先生に診てもらうようになって、およそ10年。 最初は、なんてことない先生だと思った。 特別な感情はなかった。 今度の担当の先生の指先は、とても綺麗だ…。そんな事を感じたくらいがせいぜいだった。 先生の診察は、とても長い。私以外は…。 私だけ短い、その先生の診察日に、私は近況話を、短くまとめて話さなければならなかった。 私は、先生の診察日に、『私は病気じゃない人』 と思われるよう、最初の一年は、演技した…。 そんなことを繰り返していくうち、いつしか私は、先生の診察日の私の装いに酔っていくようになっていった。 ある時の診察日を迎え、先生と話をしている時、先生は、 「奈緒美さんの手は、荒れてるね。」と、言いながら、私の手を見つめた。 私は、おもわず手を隠した。 そんな事を言われた診察日の夜、私がお風呂に入り、ボディーシャンプーをタオルにつけ、よく泡立てて体を洗っている時、なんとなく自分の指先が、自分の指先じゃないような感覚がしてきた。 不思議な感覚だった。 ふと自分の指先を見ると、右手人差し指の第一関節の近くにほくろがある事に気がついた。 「あれ?私、こんなところにほくろがあったんだ…。」 そんな事をつぶやきながら、自分の指先じゃない他人の指先のような感覚をまるで面白がりながら、体全体を泡だらけにした。 その夜、私は、珍しく朝までよく眠った。
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