鐘の音に想う

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 カツンと歯の上下を噛み合わせて音を鳴らせて、そして笑ってやった。笑いながら人に血を流させることができると知っている男は怯みもせずもう一度唇を寄せる。 「ああ、それくらいお前に捧げてやるよ。この先舌がなくとも俺は剣があればあの人を護れる」  そこで初めて気付いたのがこいつの方がいかれているということだった。  こうなると自分の負けを認めることも必要だ。    私は確かに今、寂しさを覚えている。失恋などではないことを私は知っているが、この気持ちが何かということは考えたことがなかった。  こいつが望むことは、馬鹿な犬を殺すほど嫌ではない・・・・・・ようだ。 「お前みたいな馬鹿は見たことがない」  苦し紛れにそう告げると、「馬鹿な子ほど可愛いっていうだろ?」と笑う。声を出して笑う奴の首を掴み、首筋に噛みついてやった。 「なんだ、お前、俺の事が好きだったのか?」  意外そうな声は、嬉しそうでムカつく。だから「好きじゃない――」と今度は首筋を舐めてやった。 「お前、抱くほうがいいのか?」  男同士ならどちらかが尻を貸さねばならない。だが、この筋肉の塊の尻に私のものを入れる気力なんて持ち合わせていなかった。 「いいと言えば、お前が抱かれるつもりなのか?」  とりあえず聞いただけなのだが、少し頬を赤らめて「それでもいい」と言う。あ、駄目だ。鳥肌が立った。 「いや、無理だ――」  鳥肌を見せると、男は真剣に怒り始めた。  意地が悪いだとか、男心を弄びやがってとか・・・・・・。そんなにショックを受けるとは思っていなかったのだが、意外にこいつは繊細なのかもしれない。全くもって、欠片さえ見えないが。  怒りながら書類を拾い、机の上に綺麗に置く。案外几帳面なんだ、こいつは。  私より顔一つ分も大きく、身幅に至ってはすっぽりと私を覆えるほど。力の強さでいえば、倍以上は確実にあるはずの男がだ、無言でしばらく凝視していたら、目線を逸らされた。怒っているんだと思っていたのに、グズッと鼻をすする男が聞こえて、正直私は面食らった。 「悪かった――、私は女しか抱いたことがないからな。男同士はよくわからないんだ」 「俺だって・・・・・・、お前しか抱きたいとは思わなかった」
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