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鐘の音に想う
「葬送の調べが聞こえてきたな」
窓を開け放しているとはいえ、神殿の音楽がここまで聞こえてくるわけがない。そして、それが例え聞こえたとしても葬送ではないはずだ。
窓の外に目を向ければ、白い鳥が二羽で青い空に飛びたとうとしているのが見えた。
菓子を頬張りながら何を馬鹿なことを言っているんだと呆れたように目線を送れば、男は意外と真面目な顔をしていたので驚いた。
「何を・・・・・・」
「リチャード様の結婚でついにお前も失恋したというわけだ」
ざまーみろと言わんばかりにそんなことを言われて、悔しいとかそんなことはないとか言う以前に、お前は馬鹿だろうと言いたい。
「リチャード様の結婚を私が喜ばないわけがないだろう」
「そんな建前はいい――。ほら、傷心だろ、寂しいだろ――。俺の厚い胸板をかしてやる」
こんな目出度い日にする仕事ではないけれど、特に重要な役目を担っているわけではないから式が始まる前に抜けてきた。私の席に勝手に腰掛けていたくせに、そんなことを言いながらグイっと身体を引っ張られた。小さいとはいえ仕事部屋をもらっている私の執務机に運んでいた書類をばらまいて、倒れ込みそうになったのを手で止めた。
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