鐘の音に想う

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 私は今、宰相閣下と呼ばれている。結局独り身のままだった。王宮でリチャード様の継嗣であるアルベルト様に仕えている。リチャード様は、アルベルト様が成人されるのを見届けると、元来の身体の弱さもあって他界なされた。 「カシュー、明日だな」  明日はアルベルト様の結婚式だ。 「ああ」 「なぁ、俺とさ、結婚しない――?」  何を馬鹿なことを言っているんだと目で言うと、チュッと眉間に口付けされた。 「馬鹿なことを――」 「同性婚、最近巷で流行っているんだ」 「だから?」  それは知っている。今までもいないわけではなかったが、最近友好関係にある国の王族が男の妻を連れて訪れて、それから流行っているらしい。 「俺のさ、夫になってくれよ――」 「そこは妻になってくれ、じゃないのか?」 「俺はさ、お前の奥さんになって、アラーナ様と妻同士の秘密の話をしようとおもってな」 「陛下に殺されてしまえ――」  アルベルト様は、ちょっと恥ずかしいくらい嫉妬深いのだ。 「でもさ、お前、俺のこと好きだろ?」  その自信がどこから来るのか全くわからないが、私が告げる言葉は前から決まっていた。 「そうだな」 「え、そのそうだなは好きってことだよな?」  散々反対の言葉を閨で言わされてきた私の逆襲と言ってもいい。 「好きだよ」  不安げに、男は私の顔を見つめる。 「それは・・・・・・、反対の言葉じゃないよな?」  それには何も告げず、私は口角を上げて笑ってみせた――。
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