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執務室からでて、国王の部屋に行くとき、警護がつくのだが、それも中庭の隊と同じ近衛の人間なのだ。今、ユリウスに頼めば、その男がつくかもしれない。仕事だから割り切れというほど、私も鬼ではない。忙しい時期なら蹴り飛ばすが。
「いえ、僕が行きます。その、エルマー先輩も……」
エルマーを見ると、水をやり忘れていた花瓶の花のように萎れていた。
「ウォルター」
「私も、なんですよね。何で女って騎士がいいんですかね? 私達だって、それなりにいい物件だと思うんですよ」
「不甲斐ないな……。何が原因だ? 仕事が忙しすぎるのか?」
どいつもこいつも情けない。この年で結婚していない私がいう台詞でもないが。
「だって、どうやって肩とか抱けばいいんですか?」
「キスするタイミングってわかるんですか?」
「プレゼントが気にいらないって……」
「足がくさいって……」
しまいには、既婚者まで混ざって、私に縋るような目で訴えかけてくる。
「知るか! 肩なんか抱きたい時に抱けばいいし、キスは相手が可愛いなと思った時にすればいいし、プレゼントは欲しいものを聞けばいいだろう! 足が臭いのは、ハーブでも靴にいれておけ」
私は、精一杯のアドバイスしたつもりだ。だが、皆の目は、感謝でないもので溢れている。
ああっ、涙ぐむな――。男の涙なんか一リーク(お金)の価値もあるか。
「モテる人は、これだから……」
「努力とかしなくてもいいんですからね……」
悪いが、この方モテて困ることはあっても努力なんかしたこともないから、これ以上付き合ってられるか。
自分で持って行くかとため息を吐くと、下から泣きそうな声がした。
「どうやって接したらいいのかわからないんです……」
ユリウスの言葉がなければ、私はこの書類を自分で陛下のところに持って行っただろう。そして、最近の若者は……と愚痴っていたと思う。
「こうやってだな……」
座るユリウスの頤を上げ、いつもよりも幾分緩めた瞳で見つめて、微かに笑う。そして、指を滑らせ頬を撫でた。
「あ……」
ユリウスの頼りなげな声に、思わず鼻を摘まむと、周りで深く息を吐く音が聞こえた。
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