花を買いに

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 立ち塞がる男のこめかみを狙って脚を振り上げたが、軽くいなされてしまう。肘で狙っても、さすがに騎士だけあって、全て防がれた。  最近、大人しくしていたせいか身体のキレが悪い、年か? とさらに落ち込む羽目になるとは思っていなかった。 「止めてくれ。傷の手当てをさせてくれ……」  両手を拘束し抱きついた男の懇願を「どけって言ってんだろ!」と恫喝ではねのけた。 「終わったら、ちゃんと送る。し、殴ってもいい、蹴ってもいいから……少しだけ俺に時間をくれ」    ガチガチに拘束しといて、懇願する声は、震えていた。  これで、許してやろうと思うなんて、私も衰えたとしか思えない。宰相なんて呼ばれて、緩くなったものだと過去を振り変える。  私が力を抜いたのに気付いた男は、寝台ではなく椅子に掛けるように言った。  薬箱を持ってくるように家人に言いつけ、布を裂き腕の上の方を強く結んだ。止血しなければならないほどではないはずだが、血は苦手だからあえて見なかった。 「すまない……」  自分が悪いということは、わかっているようだ。 「旦那様、薬箱をお持ち……まさか! 旦那様が刺したのですか?」  真っ青になった執事の視線が私の傷を抑えている血の滲んだ布と、男を交互に移る。 「似たようなものだ……」  後悔で溺れそうな男は、血の止まらない傷口を見て、「医師を呼んだ方がいいな。縫った方が早い」と言った。 「縫う?」 「縫うんですか?」  執事は、倒れそうだ。 「縫わなくていい。城に戻れば医師もいるし」  立ちあがれば、肩を押されて座らされた。 「いや、そこに傷を上手に縫う医師がいるから、呼んでくる。直ぐだ。だから、少し待っててくれ」 「遣いをやりましょう」 「いや、俺が行く。馬で連れてくる。その方が早い。カシュー、頼むから部屋にいてくれ」  男は、膝をついて頭を下げた。オロオロと狼狽える執事が哀れで、頷いてしまった。
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