体内ガエル

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僕の目線は常に左手親指の下、ほかの部分より少しふっくりとした部分だ。 絆創膏が綺麗に貼ってある。 毎日きっちり貼りかえねば。 決して治らない傷。 決して言ってはならない僕だけの秘密。 時は西暦2035年。 東京・・・昔思っていたより断然住みやすい社会になった。 なんだかんだ言われて開催が一時期危ぶまれた2020年東京オリンピック。 無事開催され、続いて2022年大阪万博、共に大成功。 世界中を熱狂させたあの二つの祭事はまだ記憶に新しい。 当時、学生だった僕も家族と一緒にテレビにくぎづけになったものだ。 世界中からの高評価を基盤に日本は長く続いた不況から脱却した。 当時、増殖していた外資系企業と外国人労働者とうまくバランスをとりながら 独自の工業、化学、発明に力を注いでいきその中でもナノテクノロジーを 駆使した人体修復の分野で世界トップになった。 もちろん、その陰で犠牲になったものもあった。 地方の都市化工業化が異様に進んだために野山や畑、水田はほぼ壊滅した。 犠牲になったのは小動物、特に昆虫や爬虫類、両生類だった。 そして現在。 経済的にもすっかり安定した東京、僕の住処はここ秋葉原だ。 僕はいつもいるサイバーカフェの店内のガラス越しから大通りを見回した 。夕暮れの中、多国籍な人々が闊歩している。 彼らを照らす、電気街の色とりどりのLEDライト。いまやカジノまである。 住みたい国ナンバーワン。東洋のジパング、日本。 2020以降、地方の小規模な地震はわずかにあったが、結局、当時あれだけ 騒がれた南海トラフ地震や首都圏直下地震、富士山噴火も起こらなかった。 僕は秋葉原の中心地のマンションで一人暮らしを満喫していた。 知り合いからはうらやましがられる秋葉原住人。 仕事はジャンクPCの回収と修理。独身だが充実して・・・と いう矢先に事故にあってしまった。 電気自動車は既に過去の産物となり、今や磁気自動車が主流となっていた。 細長いレールの上を数メートル空けてホバークラフトのように走る磁気自動車は 環境にはやさしいが事故も多かった。 僕は駐車スペースに止めようと下降する自動車に気付くのが遅かった。 なんとか身をかわしたものの左腕の肘から下はタイヤに潰されてしまった。 あの激痛は・・・言葉では言い表せな・・・い。 い、今、思い出しただけでも汗と震えが止まらなく・・・動悸が。 とりあえず、深呼吸・・・な、なんとか大丈夫そうだ。
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