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これでも最近は精神的にましになったほうだ・・・話を戻そう。
事故現場でショック状態になりそのままブラックアウトしたのを覚えている。
気が付くと病院のベッドの上で医師や看護婦の姿を数人、ぼんやりと確認できた。
そして、肘から下には腕をかたちどった透明なケースのようなものがはめこまれて
おり、その内部にドロリとした緑色の液体が注入されていくのも確認できた。
ああ、あれが例の・・・ナノテクノロジーを駆使した革新的な培養液。
腕の感覚は相変わらずなかった。
本当にあれで・・・僕の腕が・・・そこでまた意識がもうろうとした。
医師が麻酔でも使ったのだろう。
無事に意識が戻ったその日から数週間は病院で過ごした。
そこで初めてはっきりと腕を見た。
透明な腕型のケースの内部はすっかり緑色の培養液に満たされていた。
濃い緑色だったのでケースの奥深くは見通せなかった。
僕のもとの腕は本当に・・・ない。
これが全部悪夢ならどんなにいいか・・・そう思うと
僕の涙腺から熱いものがこぼれ落ちた。
初めの一か月は面会に来た両親さえ遠ざけ呆然とケースを一日中見つめていた。
・・・これで本当に腕が出来上がるのか。
このケースは僕の正常な右腕をモデルに造ったと医師は説明した。不安と期待を胸に僕は腕を見続けた。
二ヵ月目に肘から下あたりに違和感を感じた。
なんだこれ?うん・・・そうだこれは・・・
それは極めて正常な反応だった。か、感覚だ・・・感覚だ!神経が出来上がったんだ!
凄いぞ!僕は嬉しさのあまり、ベッドで飛び跳ねそうになった。
寝たきりで不味い流動食の毎日。
その鬱積した日々が全部吹き飛んだ。
この頃になると頻繁に医師が来て経過を確認していた。
そして、筋肉組織が完全に出来あがるまでもう少しと言っていた。
三か月経った頃には濃い緑色のむこうにうっすらと腕の輪郭が見え始めた。
もう少しなんだ!あともう少しで・・・
そして・・・
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