体内ガエル

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半年後。 僕はまたここ秋葉原にいる。 もとの生活に無事、戻れたわけだ。 左腕は完璧に修復された。 以前のように何不自由なく動かせ、仕事にも支障がない。 サイバーカフェの店内、僕はまた、左手親指の下を見つめた。 綺麗に貼りかえた絆創膏。 ケロケロ・・・ おっと・・・何だ? 空耳か?違うだろう、知っているくせに。 左手を耳に当てた。 ケロケロ・・・ うん。まただ。勿論、店内の誰かの携帯電話の着信音ではない。 僕は店内を見回した。 誰もこの小さな音には気付いていないな。 音というか鳴き声だけどね。 僕はくすっと笑った。 他人に見つかるのが嫌だった。 そっと絆創膏をはがして傷口を見た。 傷口は三センチ、ちゃんと前に測っている。 相変わらず、傷口は少し開き乾いた様子で出血さえしていなかった。 病院から退院して二週間後にある異変に気が付いた。 左手親指の下に奇妙な切り傷が出来ていたのだ。 不思議なことに出血はしていない。 どこかで怪我をした記憶もない・・・ 僕は傷口をそっと触ってみた。 柔らく、簡単に開きそうだ。一体何なんだ・・・ そうしているうちに指がするりと入ってしまった! 僕は驚いて指をいったん止めた・・・どういうことだ ! 完全に治っていなかったのか!やぶ医者め! 不安と怒りで動揺していたが勢いでそのまま奥まで入れてみた。 中は暖かく完全に乾いている。 ぼこぼこした感触。 指で恐る恐る傷口をこじ開け、そこから中を覗き込んだ。 思わず息をのんだ。 三センチの傷口の真下にはピンク色の筋肉のような組織で 外壁を固められた完全な空洞ができており、そこには・・・そこにはあいつがいた。 外壁から短いへその緒のようなものがお腹でつながった親指の爪程のチビガエル。 それが僕とあいつとの最初の出会いだった。 ネットの画像や動画ではその姿は知ってたいたが、まじかに見るのは これが初めてだった。 しかも、こんなかたちで・・・日本では絶滅したはずの・・・ 間違いなくこいつはカエルだった・・・色は茶色や緑色ではなく傷の中の 外壁と同じピンク色のカエル。 傷口から指をひっこめ、何度も深呼吸した。
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