体内ガエル

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僕はその日、めまいがしてしばらく呆然としたのを覚えている。 医者とあの培養液を造った会社に相談しなくちゃ。 場合によっては訴える準備も・・・ これから・・・どうしよう、くそ!せっかくの新品の腕が! しかし、ある考えが頭をよぎった。 待てよ、こんな前代未聞の症例の僕が大騒ぎしたら、あっと言う間に 世間に広まってマスコミなんかの餌食にされて見世物に されるかもしれない。 それに培養液の欠陥を暴露されそうになったら、会社は僕を 闇に葬ろうと躍起になるかもしれない・・・なにしろ、あの規模の 大きさと資金・・・バックに政府の後ろ盾があるに違いない。 ああ!僕はどうすればいいんんだ! 考えろ!考えるんだ! 両親にも知人にも言えない・・・今の僕には・・・ 僕は傷口を開き、ピンクガエルを再び見た。 小さな体、顎の下の鳴き袋、膨らんだりへっこんだり・・・ しっかりと呼吸している・・・生きている証拠か。 水かきのついた短い前足と後ろ足。 僕と目が合う・・・しばらく見つめあった。 真っ黒い小さい両目。 僕はもう笑うしかなかった。 お前は一体何なんだ・・・突然変異か? ・・・そうか、一つ だけわかったことがある。2020年頃から始まった地方の異常なまでの工業化。 ナノテクノロジーや培養液の開発の陰で姿を消した 小動物、昆虫、爬虫類、特に両生類たち・・・ きっとあの培養液はその生物たちの成分・・・ 両生類・・・カエルから造られたものなんだ。 目の前に証拠があるじゃないか! 今回は何らかの手違いで腕と一緒にカエルまで修復されたんだ! 今も科学者たちと政府の監督のもと、どこかで繁殖させているに違いない。 絶滅なんかしてやしない。 僕はぞっとした。 ますます、誰にも言えない。 ピンクガエル、僕はお前をどうすればいい? そのへその緒みたいのを切ったらおまえは晴れて自由に飛び出して いけるのか? ずっと見つめていると不思議なことに僕は既に狂っているのか 愛着がわいてきていた。 こいつは僕の体の一部だ・・・きっとこのへその緒は僕の体 から養分を吸い取りカエルに送っているんだ。 へその尾を切れば死んでしまう・・・ 僕が生き続ければ、こいつも生き続ける。 僕は腕に力を入れて筋肉を動かしてみた。 内部の筋肉に押され空間が少し、狭くなったがピンクガエルは へその緒をつけたまま、元気にジャンプした。 僕はまたくすっと笑った・・・かわいい奴。
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