76人が本棚に入れています
本棚に追加
突然グイっと腕を引かれて、無防備だった歩人は焦った。しかし反射的に踏ん張って身を引く。
「なんだよ!」
「歩、お前自分の言ったことの意味、わかってるか? そのまま受け取っていいのか?」
言った意味?
そのままって、どういうことだ?
「いっ、いや! 柾、謝れ! まず俺に謝れ! そこに両手をついて、深々と! 誠心誠意とやらで謝れ!」
「うーん、土下座の強要はちょっと問題あり、だな」
「いいから! 変な誤解してないで、謝れー!」
謝らなくていいと言ったことを、昨夜の行為を受け入れたと思っていいのかと柾は言っているのだ。
顔から火が出るかと思った。
冗談じゃない。歩人は噛み付くような目で、柾を睨み付けた。
「謝らなくていいと言ったり、謝れと言ったり忙しい奴だな」
土下座の強要をされたと問題視するなら、その前に昨夜の自分の行動の方がずっと問題があると自覚しろ、と歩人は思う。
相手の意志を全く無視して行為は、容認されるべきではない。
「ごめん。昨夜のことは、全面的に俺が悪かった。歩の気持ちも考えずに勝手なことして本当に申し訳なかったって思ってる、ごめん。でも――」
「でも?」
歩人の眉がはねた。
「でも、楽のことは謝らない。本人の許しは貰ったし、歩には関係のないことだ」
「なっ!」
続いた言葉に、歩人は言葉を失った。
最初のコメントを投稿しよう!