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関係ないと言われれば頭にくるが、確かにその通りなので言い返す術はない。
しかし柾はそのことを「気まぐれ」と言ったのだ。
――いいや、本気ならいいのかと言われれば、それはそれで大問題なのだが。
「俺は許さない。昨夜のことは、犬にでも咬まれたと思って忘れるよ。だけど楽人にしたことは許さない」
「どうしろと?」
今更何をしたって、どうにもならない。
そんなことはわかっている。
「なにかをして欲しいわけじゃない。あんたの言う通り、俺に関係ないと言われればその通りだし! だけど俺は、許さない――それだけだ」
何かしらの償いを求めてはいないが、知っておいて欲しい。自覚しておいてほしい。
「……わかった」
柾は短く返事をして目を伏せると、地面に放置されていた歩人のカバンをヒョイと拾い上げた。
「ん、ほらこれ」
「ありがと」
歩人もまた短く礼を述べて、差し出されたものを受け取ると「じゃあ」と口にした。
これで、さよならだ。
それでいいと歩人は思っていた。
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