76人が本棚に入れています
本棚に追加
「歩、俺決めたことがあるんだけど」
唐突に柾がそう口にしても、歩人はなんの反応も返さず門扉に手を掛け、中に入った。
「楽からの預かりもの、俺は歩に受け取ってもらいたいと思ってる」
背中に少しトーンを落とした声を受けて、歩人は足を止めた。
この期に及んで持ち出された『楽人からの預かりもの』に、正直戸惑った。
しかしすぐに気持ちを立て直す。
話は簡単ではないか、相手は受け取ってもらいたいと言っているのだから。
「ん、じゃあちょうだい」
振り向くとにっこり笑って、歩人は右手を差し出した。
本当はそんなテンションでは、ないけれど。
そんな簡単なものではないと、知っているけれど。
「んー、今はダメ」
柾も同じようににっこり笑って、歩人の手を弾いた。
「なんで? くれるんだろ?」
「あー、さすがに持ち歩いてはいないしな。それにもし仮に持ってても、今はダメー」
まるで軽いジャブのような会話。
お互いの目が笑っていないのがわかっていながらの応酬。
最初のコメントを投稿しよう!