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「歩、俺決めたことがあるんだけど」  唐突に柾がそう口にしても、歩人はなんの反応も返さず門扉に手を掛け、中に入った。 「楽からの預かりもの、俺は歩に受け取ってもらいたいと思ってる」  背中に少しトーンを落とした声を受けて、歩人は足を止めた。  この期に及んで持ち出された『楽人からの預かりもの』に、正直戸惑った。  しかしすぐに気持ちを立て直す。  話は簡単ではないか、相手は受け取ってもらいたいと言っているのだから。 「ん、じゃあちょうだい」  振り向くとにっこり笑って、歩人は右手を差し出した。  本当はそんなテンションでは、ないけれど。  そんな簡単なものではないと、知っているけれど。 「んー、今はダメ」  柾も同じようににっこり笑って、歩人の手を弾いた。 「なんで? くれるんだろ?」 「あー、さすがに持ち歩いてはいないしな。それにもし仮に持ってても、今はダメー」  まるで軽いジャブのような会話。  お互いの目が笑っていないのがわかっていながらの応酬。
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