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「歩人?」  毛布越しに背中に触れた楽人が名前を呼んでいる。 「歩人は何がそんなに嫌なの?」  嫌なことなら、沢山ある。  今こんな風に、楽人を怒らせてしまったかもしれないことも嫌だし、楽人から「歩人なんて知らない」なんて言われる想像を止めらない自分も嫌だ。 「歩人」  名前を口にしながら、リズムに合わせてポンポンと背中を打つ楽人の手にほんのわずかに救われて、歩人は返事の代わりに楽人の名前を呼んだ。 「ん? なに?」  折角返事を貰ったのに、続く言葉が出てこない。  なにがそんなに嫌なのか、聞かれても困るのだ。 「歩人、母さん困ってたよ? 突然、明日学校行かないなんていうから」  だってそれは――。 「なんか嫌のことあった? 誰かに意地悪されたとか?」 「違う。そんなことない」 「だったら、歩人は何がそんなに嫌なの?」 「――全部!」 「全部って?」  顔を見なくても、そう呟く楽人が困惑しているのがわかる。
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