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 言葉にする勇気はなく、歩人は毛布を握り締めた。 「あのね、僕がわかったって言ったのは、歩人は全部嫌なんだなぁってことで、なにが嫌なのかは今からじっくり聞くから、とりあえずくっついていい?」  そんな風に言われれば断ることはできず、歩人は握りしめていた手を緩めて、毛布の中に楽人を招き入れた。  毛布の中で向かい合い、お互いの体温を分けあう。  小学校に上がったのを機に二段ベッドが用意されたが、それから三年たった今でも、夜中にそっと相手のベッドに潜り込むのは歩人の方で、こんな風に楽人が潜り込んで来るのは珍しい。 「母さんに見つかったら叱られるよ?」 「いいよ、寝ちゃうわけじゃないし、母さん買い物に行くって言ってたから」  叱られるのは、楽人がベッドの二階にいる事だ。  上の段は歩人。楽人は登らない。  それは一番最初に決められたルールだった。 「でも……」 「大丈夫。最近は調子いいんだ。それより歩人? 話してくれないと、なにが嫌なのか僕わからないままだよ?」  毛布の中に作られた二人きりの秘密基地で、楽人は自らの体調について口にした。
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