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「調子いいの? 本当に?」
「うん」
「だったら……」
明日の遠足だって――。言いかけた言葉を途中で飲み込んだ。
それは言ってはいけないことだ。
言えばそれは、ただの我儘になる。
もう一つ嫌なことが増えたと、歩人は小さくため息を吐いた。
どうせ今更一つぐらい増えたとしても、大差ないのだろうけど。
「歩人?」
「わかった、話す。話すけど、笑わないで」
「もちろん! 笑ったりしないよ。約束する!」
真剣な表情で楽人はそう言うと歩人の手を取り、自分の両手で包み込んだ。
お互いの体温を分け合えば、いつもなら安心と安らぎがあるはずなのに、今日は少し引け目を感じ僅かに身を捩ると「……あのね」と歩人は重い口を開いた。
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