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「そっかあぁ、なるほどそういうことかぁ」
話を聞き終えた楽人はそう呟いて目を伏せた。
ついさっきまでじっと自分を見つめていた視線がなくなると、途端に歩人は不安になった。
きっと楽人は呆れてしまったに違いない。
どうしようもないことに腹を立てて、いやだいやだと繰り返す自分のことなど。
歩人はそろりと楽人に背を向けて丸まり、膝に頬を押し当て目を閉じる。
背中に楽人の動く気配感じた。どうやら楽人はこちらを向いて、同じように身体を丸めたようだ。
楽人はなんと言うだろうか。
身構えて待ってみたが、楽人からはなんの反応もない。
やっぱり。……そう落ち込む気持ちもある。
「――楽人?」
しかしそれを上回る、不安と予感が頭をよぎる。
「楽人……?」
もう一度声を掛けて、間を置かず今度は身を起こして振り返った。
眠っているはずもない楽人からの返事がないことが、とてつもなく、怖い。
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