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「……なにバカなこと言ってるの」
「バカは楽人の方じゃん!」
やっと聞けた楽人の声に、歩人はまた反射的に言い返した。
ため息が聞こえる。
「あぁそう。僕はバカなんだね、わかった。じゃあ、僕の答えをきいて? もしも歩人が先に死んでしまうことがあっても、僕は一緒には、いかない」
「えー」
「えー、じゃないよ? それ歩人のために生きたりもしない。僕は僕のために生きるから、ごめんね?」
「楽人ひどい!」
「ひどい? どうして?」
「楽人は俺のこと嫌いなんだ! だからそんなことを言うんだ……」
最後は自分の言葉に落ち込み、尻すぼみになってしまったが、もちろん本気でそんなことは思っていない。
楽人が自分の事を大切に思ってくれているのを知っているからこそ、言えるセリフだ。
「そんなことないよ、僕は歩人のことこの世で一番好きなんだよ?」
「そんなのウソだ。だって楽人目が笑ってない」
望んだ通りの返答を貰いながら、歩人は尚も食い下がった。
意図のわからない突然の発言のせいで生まれた不安を、重ねる言葉でなかったものにしたかったのだ。
いつもならそうしてくれるはずの楽人は、また困ったような表情を浮かべると、そこで初めて歩人から視線を外し、布団の上の自分の手を見つめると組んだ指を組み替えて何かを考えるような顔をした。
「楽人?」
「あのね歩人……目が笑ってないのは、今とても大切な話をしたからだよ」
もう一度視線が繋がった後、楽人はそんな事を言うと、ふわりと笑った――。
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