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「待てって!」
平静を装って進む歩人に、大股で近づいて来た男が追いつくのはあっという間だった。乱暴に肩を掴まれ、停止を余儀なくされる。
「お前なに無視してるんだ? 大体どこに行くつもりなんだ? ここからバスに乗るんだろうが」
どれもこれも男には関係のないことのはずだ。
歩人は掴まれた肩越しに男を睨み付けた。
「触んないでくれる? もしかしてあんた、チカン的な人?」
限界に達していた不快感が、挑発的な言葉とともに溢れ出る。
一瞬ポカンとした表情を浮かべた後で、男は「はぁ?」と呟き、纏う空気を変えた。
「なんだよ? 聞こえてんなら手ぇ放せ」
その気になれば振り払うことは簡単だろうがそうはせず、歩人は男から視線を外さなかった。その挑発にのったのだろうか、男は無言で突き飛ばすように歩人を解放した。
少しバランスを崩し一歩踏み出したその足で歩人はそのまま歩き始めた。
結局無視を貫くことはできなかったが、目指すは次のバス停だ。
「おい、どこ行くんだ」
追いついてきた男の声にはもちろん、無視を決めて歩人はまっすぐ歩を進めた。
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