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高校に行くための準備を終えて玄関に向かったのは、いつもより三十分以上早い時間だった。
それでも「まあいいか」と歩人が思うのには、二つ理由がある。
まず、自宅で朝ご飯を食べる習慣がないこと。
もう一つは、なるべく両親に遭遇しないように家を出たいということ。
朝食については、いつも利用するバス停の近くにコンビニがあるので、何の問題もないのだが――後者についてはなるべく気配を消して行動するしか、術はない。
それは現在も絶賛実施中で、歩人は足音を忍ばせて廊下を進んだ。
息を殺して通り過ぎたリビングに人の気配がなかったということは、両親ともまだ起きていないのかも知れない。
そう思いながら辿り着いた玄関、学校指定のスニーカーに片足を突っ込んだところで背後に人の気配を感じ、歩人は自然と身構えた。
「――楽人?」
いつの間にか後ろに立つ母の声に「楽人」と呼び止められて、そのまま固まった。
「楽人、今朝は早いのね」
「おはよう、母さん」
さっきまでの無表情が嘘のように、歩人は振り向くと満面の笑みを浮かべ、パジャマ姿の母を見つめた。
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