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「なぁ、楽!」
無反応を貫けば、しびれを切らした男の手が伸びてきた。
間一髪その手を避けて、歩人は相手を睨み付け牽制しながら次の行動に備える。
自分の知っている相手なら、故意であろうとなかろうと楽人と呼ばれてかまわない。
しかし全く知らない人物にそう呼ばれることは、絶対に、嫌だ。
耐えられない。
――凍る気がする。
楽人に自分の知らない知り合いがいること自体許せないし、その人物が馴れ馴れしい態度をとることも我慢ならない。
そこには老若男女、一切の妥協はなく、だ。
「楽?」
困惑した表情で覗き込んで来るこの正体不明の男は、楽人が双子であることを知らないのかも知れない。
ふと、そんな事を思った。
だとしても、自ら名乗ったりしないが。
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