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予感がなかったと言えば嘘になり、なんとなくそんな気がしていたと言えば嘘っぽくなる。
いつもの時間のいつものバス停に、昨日の男の姿を見つけて、歩人はどうしたものかと歩くスピードを落とし相手の様子を探った。
幸い向こうはまだこちらに気付いてはいないようだ。
バス停のベンチに腰掛け、スマホを弄っている横顔にはやはり見覚えがない。
短く切りそろえられた髪や座る姿勢、それに恵まれた体格の良さから、何かしらのスポーツをしているのだろうかと思ったが、その方面から考えてみても心当たりは皆無だ。
いつの間にかバス停まであと少しというところまで辿り着いてしまい、そこでようやく無防備に近づき過ぎたことに気がついた。
手遅れかも知れないと思いつつ、さっき寄ったばかりのコンビニへと方向転換を試みる。
「あ、おはよう」
しかし作戦は呆気なく徒労に終わり、歩人は無表情のまま相手の顔を眺めることになった。
まるで約束していたかのように声を掛けられれば、いい気はしない。
歩人はついと目を逸らし、立ちすくむ。
昨日はたまたまいつもより早い時間だったが、今日は違う。それなのに待ち構えていたような男の行動が不快だった。
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