"探索”

3/6
前へ
/15ページ
次へ
部屋に戻り、光冴(こうが)が眠りに着いたのを見計らって、私は部屋に備え付けてある洗面所へ籠った。 勿論、ヨハネスとの報告会の為だ。 念話で話せる為、ベッドの中で行ってもいいのだが、資料を見る為や、個人スペースの確保の為、籠る事にしたのだ。 「ハロー,ハロー。 ドッペルゲンガーとして、初仕事の気分はどうです? 楽しんでます?」 今日聞くのは2回目の、ヨハネスの声。 相変わらずの様子で、なんとなく心が安らぐ。 いつもの憎まれ口も、楽しいと思えてしまう。 「少なくとも楽しくはない。」 「あはははははは」 そんなどうでもいい会話を交わしていると、ヨハネスが話を進めた。 「で、進捗(しんちょく)はどんな感じです?」 「実家行って、ご飯食べた。」 「…………」 あまりにもサッパリとした答えに、ヨハネスが絶句する。 「……あと、1週間とちょっとしか無いんですよ? そんなんで大丈夫ですか?」 不安の色を全く隠さないヨハネス。 それに対し私は__ 「大丈夫。あと1週間とちょっともある。」 馬鹿みたいに楽観的だった。 「明日は、書庫に行くことになってるから、情報は沢山得られると思うの。 だから、心配しないで。」 と、前向きにヨハネスを励ます。 「そっちの、翡翠(ひすい)の様子はどう?」 私が尋ねると、地雷を踏んでしまったのか、ヨハネスは大きな溜息をつき、 「なんなんですか!あのお坊っちゃんは!!」 と、突然キレた。 「こっちに来た途端、誰も居ない世界に興味津々で、あっちこっち駆け回って…… 餓鬼(ガキ)ですか!?えぇ!? クソガキなんですかぁ!?」 怒りに身を任せたヨハネスは、なおも続ける。 「し・か・も! ふらふらした挙句に、他のドッペルゲンガーと鉢合わせそうになったんですよ!? こっちがどれだけ苦労した事か…… 気持ち良さそうに眠って、いいご身分ですよ、まったく……」 まぁ、彼は実際いいご身分な訳だが。 それを今日、痛いほど痛感してきた私には、ツッコミを入れる気力すら芽生えなかった。 と、いうか。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加