"準備”

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有名人らしく、ギャラリーが騒ぎ始める。 所々から、黄色い声まで聞こえる。 よく目を()らして見てみると、薄黒い肌に首から覗く刺青。 肩幅は広くがっしりとしていて、何よりも身長が高い。185cmはありそうだ。 長い手足に、少し縦長の小さな顔。 眠そうに口角を下げ、棒付きキャンディーを舐めている。 長い前髪のかかったタレ目は、見た目のいかつさを相殺する様な、人柄の良さが垣間(かいま)見えた。 「きゃーーーー!!! 光冴様(こうがさ)ぁーーーー!! こっち向いてくださーーーーいーーー!!!」 ギャラリーのうちの1人が大声で叫んだ。 そうだ。彼は資料で見た。 五反 光冴(ごたん こうが)。 夏目家と同じぐらいの規模の、大企業を経営する名家、五反家の現当主。 実家が近いこともあり、翡翠と五反は幼馴染だとか。 歳は5つばかり離れているが、親友の様な関係のようだ。 互いの実家にも、よく行き来をしていたとの記録が残っている。 「よぉ。久しぶりだな、翡翠。」 「あぁ。久しぶり光冴。元気だったかい?」 「おう。睡魔を除けば大丈夫。」 「ははは!相変わらずだね。」 と、まぁ、このように。 一番バレやすい相手にも動じずに、世間話をすることが出来た。 彼は、現在21歳で、翡翠の通う高校に隣接する大学に通っている。 翡翠の通う高校は、エスカレーター式で、高校と大学が一緒になっているのだ。 よって、このように、僅かな休み時間でも、向こうの授業と合えば会うことが出来るのだ。 「ところでよぉ。 お前手紙読んだ?」 「え?」 しまった。 入れ替わったばかりで、郵便物にまで気が回っていなかった。 「ははっ。 やっぱりな。」 光冴はとろんとした目で八重歯を覗かせて笑った。 「お前、郵便気にしないからなぁ。 俺も、手紙はやめとけって言ったんだけど。」 「何か重要な知らせでもあったのかい?」 「あぁ。」 それは困る。 どんなに情報があっても、イレギュラーなことに対応するのは難しい。 予測困難なことは、さらに難しい。 冷汗が出てきた私をよそに、光冴は淡々とつげた。 「誕生日まで、実家戻って来いってよ。」
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