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車から降りると、目の前には洋風な、大正時代風の建物が現れた。
屋敷は三階建てで、都内にしては青々しく生い茂る森の中に存在していた。
大きな屋敷は、コの字型に位置どられており、正面が本館、両脇が東館と西館になっていた。
全ての館に囲われている部分は、庭になっており、中心部には噴水が、その周りを迷路の様に囲っているのが多種多様な薔薇だった。
あまり匂いはキツくなく、優しい香りがふわりと鼻の奥を撫でるだけだ。
朝露に濡れる薔薇を見るのもまた一興だろう。
そんな事を思っていると、
「翡翠坊っちゃま。」
と、呼ばれた。
私はいつの間にか、1人でふらふらと結構な距離を歩いていたらしい。
後ろを振り向くと、遠くにいる光冴の隣に痩せた紳士的な老人が立っていた。
老人の乱れのない装いと、言動の優雅さが、唯の老人では無いことを表している。
建物の雰囲気と相まって、まるでヨーロッパの地位ある伯爵家の当主のようだ。
しかし、誰なのかが分からない。
どうしたものかと困りつつも、ゆっくりと老人の元にに近づいて行くと、頭に聞き覚えのある声が響いた。
「その老人の名は、千賀 泰弘。
翡翠さんが幼い頃の側用人です。
記録では、6歳頃まで側仕えだったとか。」
老人との距離があと10mのところで、素性をヨハネスにより初めて知ることが出来た。
まだ1日も経っていないのに、ヨハネスの声が物凄く懐かしく感じる。
「で?なんて呼んでた?」
「え?」
ヨハネスからの返事を待ちつつ、私は無言で老人に、笑みを浮かべながら握手を交わした。
「だから、翡翠は幼い頃に、彼の事をなんて呼んでたの?」
「えぇーとですねぇ……
ちょっと待ってください?」
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