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「でも、銃口を相手に押し当てながら撃てば、外しようがない。密着が必要な柔道ではリスクが高すぎる。そして一番危険なのは揉み合いになった時だよ。犯人は抵抗する時に銃を乱射すると思う。そうなれば、率先して戦う生徒はもちろん、離れた場所に居る人たちに命中するかもしれない。流れ弾を避けるだなんて不可能でしょう?」
「言われてみれば、確かに……」
「僕らが目指すべきは相手に発砲させないこと。そして、出来ることなら説得をしたい」
「説得!?」
色をなしたのは別の男子生徒だ。
後ろ手に縛られていなければ、掴みかかりそうな程に目を怒らせている。
「そう。話し合いで解決出来る可能性があるんだ。僕はそう睨んでいる」
「無茶だろ。こっちは全員縛られてんだ。相手がキレだしたらお終いじゃん!」
「確かにもっともな話だ。失敗したときの保険が欲しい訳だね?」
「お前の予想が外れる場合だってあるだろ?」
「そうだね。じゃあ、こういうのはどうかな?」
東郷は自由になった両手を皆に見せた。
これにはその場の全員が目を丸くする。
「お前、どうやって紐を?」
「手品の縄脱けってあるじゃない。あれの応用さ」
「マジかよ。すげぇな……」
「さて、よく聞いて欲しい。僕から提案する方針は説得だ。再び犯人が戻ってきたところに、僕が対話を試みる。上手くいけばそれで良し。失敗したなら、不意を付いて護身用具で倒す」
東郷が制服の上着の中を披露すると、反論の声は鳴りを潜めた。
言葉無しに同意した瞬間である。
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