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彼はそれからボタンを止め、その場に座り込み、哀れな囚人であることを装った。
「東郷……お前は何モンなんだよ」
「ええ? 嫌だなぁ。ごく普通の高校生さ。キミたちと同じ……ね」
囚われの生徒たちは、東郷の微笑みに活路を見た。
それは瞬く間に信頼へと姿を変える。
彼に決断を委ねたならば、華麗に難事件を解決し、全員の明日を保障してくれるのでは……と思わせるに程に。
泣く者は一人も居なくなった。。
もはや彼らは人質ではない。
確固たる意思を一にした集団であり、即席の『説得班』となりつつある。
息を殺して待つ事しばし。
事態は、外からの喧騒によって動き出す。
ーー犯人に告ぐ! この場所は完全に包囲されている。無駄な抵抗をすることなく、大人しく投降しろ!
拡声器により荒れた声が窓伝いで室内に響く。
警官隊が到着したのだ。
生徒たちは歓声をあげるが、東郷が制す。
それは犯人の要求を知るためである。
説得を試みるにしても、目的が分からなければ交渉しようがないのだ。
にわかに活気づいた室内は、再び静寂を取り戻す事になる。
ーー遅ぇんだよ! テメェら、ちゃんと要求したものは持ってきたんだろうなぁ!
ーー準備に手間取っている! 必ず用意させるから、順次、人質の解放に応じろ!
ーーなんだと!?
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