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June Wow war tonight~時には直せよパーマネント~
櫛を差し込んですとん。櫛を差し込んですとん。
昼休みの教室でわたしは金剛寺を見ていた。ひたすらに。櫛を頭頂部にあててから、右側へすとん。左側へすとん。なんだろう、この気持ち。彼は何と戦っているのか。
「ねえ金剛寺」
「はっ はいっ」
声が裏返っているのは無視してあげた。
「なにしてんの」
「いえ、あの…… 髪を」
「いや、見れば分かる。なんでそんなことしてんのって聞いてんの」
「まっすぐな髪にならないかと思いまして」
そこで山崎がやってきた。
「あり、こんちゃんどうした。櫛なんか持っちゃって」
「いえ……」
赤面する金剛寺。可哀想に、このあと山崎に爆笑された後何がしかの手荒い施しを受けるところまでが見える。
「あれ、もしかしてモテよう、みたいな?」
「いえ、そういうわけでは」
「貸してみ」
山崎は金剛寺の手から櫛をもぎ取って、乱雑に彼の髪をとかしはじめた。
「こういうのは勢いが大事なんよ。ほれ、この前髪をシュッってさせるのがポイントだから。シュって」
出来上がったヘアスタイルをまじまじと見つめる山崎。
「ぶわっははははは」
わたしはこの流れを様式美だと思うことにしている。もうそういう関係性で定まってしまっているのだ、こいつらは。
「あはは、あは、こんちゃんやべえ」
ぶわははは、と指を指しながら笑う山崎。金剛寺はいつもこういうときにすら山崎に対して嫌な表情を見せない。
「山崎、さすがに笑いすぎ」
スネオヘアーになった金剛寺は前髪を直そうともしない。
「ていうかこんちゃんすんごいくせ毛だったのな。でも別にそのままでいいのに」
「あんた…… だったらそっとしときなさいよ」
「いや、なんか一生懸命なこんちゃん見てたらほっとけないじゃん? んでなんでまっすぐにしたいん? 気になるおねいさんでもできたんか」
「僕、変わりたくて」
「ん?」
わたしは金剛寺を見た。眉間に皺が寄っている。
「その…… 髪型だけでも変わりたくて」
「うんうん。わかるよこんちゃん。よし、今夜おれん家集合な」
「は? なにが」
「こんちゃん会議を開く」
山崎は真顔だ。
「あんたさあ、脊髄反射で喋ってるよね、絶対」
「なにそれ」
「ですよね。はいはい」
山崎の目に映る金剛寺は真顔だけど嬉しそうなのだった。
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