July ここでミスして。

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 わたしたちの住む黒水南町(くろみなみちょう)の商店街チームが隣の白水南町(しろみなみちょう)のそれと草野球で勝負するという流れになったのは先週のことだったらしい。 「なんか助っ人要るみたいよ。おれ即戦力に、っつって誘われちった」  山崎の野郎がそう言い放ったときに、わたしは話のほとんどを聞いていなくて、ああそう、よかったねとだけ答えた。 「私が言いたいのは、これは遊びじゃないということなんです。たしかにたかだか商店街の草野球かもしれません。だけど、敗者チームは次の商店街セールの広告費を負担することになっている…… というのはお伝えしてますよね? まさかみなさんお忘れだったのかしら」  苛立ちを隠さない中年女性は、これでもかといわんばかりに皮肉の嵐を投げかけてくる。  黒水南町のトップ(まあまあのおじいちゃん)が白水南町のトップ(かなりのおじいちゃん)と商店街会議で話をしたときに、なんとなくそういう話になったらしい。なんとなくってどういうことだ、とわたしは山崎に問い詰めたのだが、奴は「おもしろそうじゃん」としか答えなかったのだった。大丈夫なのか、この町は。 「広告費って一言で言いますけどね、うちみたいな弱小商店街にはけっこうな負担になるのですよ。お金の問題だけじゃありません。我が黒水南町の資産をもってして隣のクソ―― 失礼、隣の白いほうに利潤が回るなど、あってはならないことなんです。それから――」  そこで主審の笛が盛大に鳴った。かったるそうにベンチに戻っていく面々を見て、女性は何故だか満足そうな表情をして頷いた。
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