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「心配しなくて大丈夫ですよ。いざとなったら山崎さんが活躍してくれます、きっと」
「はあ? なんの根拠があってそんなこと言えんのよ」
「いえ、根拠はないんですけど―― 山崎さんは運動が得意なように思いますので」
金剛寺はすいません、と付け加えた。そもそも山崎の采配が意味が分からないのだ。なんでわたしがマネージャーじゃないのか。
「山崎さん、どうぞ」
金剛寺がポカリスエットを山崎に渡す。次の打順に向けて、バットをぐりんぐりん振り回して何やらそれっぽい動きを見せる山崎に、わたしは殺意が湧いた。
「お、ありがとこんちゃん。さすがマネージャーの鏡!」
山崎の適当な物言いに照れを見せる金剛寺は、マネージャーのくせにチームの中の誰よりも日焼けしている。
「山崎くん、頼んだからね。正直、負けちゃった場合に白いほうに払う広告費なんかうちに無いのよ、ぶっちゃけ」
真顔でさらっとそう言った女性に、山崎は引き攣った笑顔を見せながら任せてください、と言った。
わたしと山崎と金剛寺、それから監督のこの女性、あとは商店街のおっちゃんおばちゃんという構成で、平均年齢は四十台というところか。おっちゃんおばちゃん達は状況を分かっているのかいないのか、ベンチで呑気にお茶を飲んだりせんべいを齧ったりしている。白水南町のほうも、なんとなく似たような構成だった。ひとつ違うのは、こちらの若手がわたしたち三人の高校生だということに対し、向こうはどう見ても大学生が数人居るように見える。しかもなんか高校の野球部が着てるようなあのユニフォームみたいなやつを着ている。大丈夫なのか、この状況。
「三番、セカンド、山崎くん」
しょぼい町の草野球のくせに、いっちょまえにアナウンスが流れた。山崎は奥のほうにバットを高く掲げている。
「山崎さん、かっこいいです」
失笑するわたしの隣で金剛寺がそう言った。
「こい!」
真剣な表情に切り替わった山崎は、ひとます投手の第一球を見送った。
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