July ここでミスして。

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「スットライーク!」  山崎くん大丈夫大丈夫! みたいな声援がベンチから飛び交う。 「ヘイヘイピッチャーびびってんじゃねえのおー」  腰を揺らす山崎。投手のおっちゃんは不敵な笑みを浮かべた。 「スットライーク!」  二球目も見逃した山崎。わたしは女性のほうを見た。なぜかまた頷いている。 「私には分かる。彼、打つわ。三球目で」  そういうものなのか、と野球のことなど何も知らないわたしは、女性が司令塔のように見えて少しかっこいいと思った。 「スットライーク! アウトオー!」  三球目を盛大に振り切った山崎。わたしはもう一度女性のほうを見た。まったくの無表情だった。この人は多分心臓が固い人種なのだと思う。多分。監督に就任したのもそういうことなんじゃないだろうか。 「ドンマイ、山崎くん。終わったことは仕方ないわ。切り替えましょう、みなさん。次、来るわよ。彼が」  チームの一同が打席に向かう大学生を見た。なるほど、たしかにホームランを打ちそうなタイプに見える。 「この試合は投手戦になると思うんです。つまり、いかに点を取られないかに意識を集中させて、みんな。とりあえずの山はあの彼ね」  それっぽい動きをした山崎とは違って、大学生は風を切るようなスピードでバットで空を切っている。 「投手戦っていうのはね、ピッチャーが双方とも点を入れさせない状態で、つまりはいかに先に点を入れるか、が超大事なのよ」  聞いてもいないのに女性が話し出す。超大事なんですか、とわたしは返した。 「そう。それはそうとあなた、守備はセンターよね。あの大学生は左利きだから、たぶんライトのほうに逸れるはずよ。ひとまずは安心していいわ」  意味はさっぱり分からなかったが、わたしは女性に背中を押されて行きたくもない持ち場所へ走っていった。  遠いセンターの位置からベンチのほうを見てみる。金剛寺がこちらに手を振っていた。あいつの邪気の無さは、きっと山崎には心地が良いんだろう。本当に脈絡無く突然そう感じたとき、わたしはふいに嫌な予感がした。女性はライトのほうに球が飛ぶと言っていたが、そもそも球の軌道なんて読めるものなんだろうか。まずい、これはセンターに飛んできた球をわたしが落として激しく非難されるパターンだ。  名前も知らない大学生、お願い。ここだけはミスして。
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