1人が本棚に入れています
本棚に追加
「お嬢ちゃん! フライフライ!」
「え? え? ふらい?」
「そっち行ってる! 上上! 絶対取れよお前、死んでも取れ!」
頭上を見るわたし。なるほどやはりさっきの女性の予言はまたしても盛大に外れたらしい。太陽の光と白球とが交互に視界に現れるかんじで、わたしはなんとか球の行方から目を逸らすまいとがんばった。
白球が揺れる。わたしは、本当に少しだけ、少年が白球を追う気持ちが分かった気がした。この球は取りたい。どうしたわたし、と自嘲しながら、必死でグローブを頭上に構えて、目を見開きながら腕を伸ばした。
ぱすん。
「よっしゃあー! やるじゃん運動音痴!」
駆け寄って来た山崎はわたしの肩をばすんと叩いた。こういうときはあれかしら、人差し指で鼻の下をこすったりするものなんだろうか。気付いたらチームのみんなは既にベンチに向かって走り出していた。しょうもないことを考えてるうちにスリーアウトになっていたらしい。
「上出来よ。作戦通りね」
誇らしげに腕を組む女性の横で、金剛寺がベンチに戻った面々に嬉々としてポカリスエットを配っている。
「うし、こっから猛打賞取っちゃる。こんちゃん、ちょっと手伝って」
山崎がベンチから少し離れて、金剛寺を傍に呼び寄せた。
「ちょっと軽く打ってみてよ、こんちゃん」
山崎が投げたゆるいボールに対して、金剛寺は剣道のように縦にバットを振った。
「…… うーん。じゃあこんちゃん、とりあえず俺にボール投げてよ」
内股気味の足をふらふらさせながら、金剛寺はえい、っとボールを放つ。二メートルほど前に落ちたボールを見て、なぜか山崎のほうがこんちゃんなんかごめん、と謝った。
金剛寺をマネージャーに据えた山崎は一応ちゃんと人を見てたんだなと納得するわたし。中年女性が「さあ一点!」と叫んだとき、青すぎる空にカラスの間抜けな声が響き渡る。
最初のコメントを投稿しよう!