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「あーもう三十日か。明日で終わるじゃんよ夏休み」
「そうですね…… 早かったですね」
わたし達三人は喫茶店に居た。山崎が呼び出したからだ。
「その終わりそうな貴重な夏休みの日に何の用なわけ」
にやり、と笑う山崎。
「ほれ、これ」
す、と差し出す山崎の手には、商店街の金券が収まっていた。
「カントクがお礼に、ってよ。俺たちに」
ゼロが四つ並んだ金券が五枚。わたしたち貧乏学生にはなかなかの金額だ。
「ちょっとこれ、こんなにくれたの? 相生さんが?」
「監督っつうか商店街の人たちが、だな」
「羽振りがいいんですね」
「『いいのいいの、八十万払うこと考えたらクソみたいなもんだから』っつってたわ、監督」
「監督……」
憎めない人ではあったのだが、何かおかしいあの女監督は、最後にわたしたちに素敵な贈り物を残してくれたのだった。広告費とやらは八十万円もするものだったのかと、生々しいものを感じてわたしは自分がデッドボールになったことを今心底良かったと思えた。
「で、だ」
生意気にもブラックコーヒーを口にしながら山崎が切り出す。
「野球に誘ったの俺だし、まあ感謝の意っつうことで。明日夏祭りあるだろ。行こうぜ、三人で」
「え、なに? もしかしてその金券で奢ってくれるとかそういうかんじなわけ」
「おうともさ」
「マジでか。たまにはあんたも良いことするじゃない」
「俺はいつでも人格者なの」
「いいんですか、山崎さん。僕まで一緒で」
「こんちゃんもマネージャー頑張ってくれたからな。ただまあこんちゃんのあのフォームは…… ぶふっ」
思い出し笑いをする山崎を見て、金剛寺は不思議そうな顔をしている。正直あの乙女のような金剛寺の運動音痴っぷりはわたしでもキツかったのだが、本人が気にしていないなら何も言うまい。
「つうことで、明日十九時にもっかい集合な。豪遊しようぜ、夜店で」
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