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山崎の視線の先には端っこに店を構えるわたあめ屋があった。
「なにが? ただのわたあめ屋でしょ。あそこまでなんだよ、店が」
「じゃなくて。光ってる。ほれ、あそこ」
わたあめ屋の斜め奥のほうに森の入り口みたいな木々の固まりがあって、そのさら奥のほうで確かに緑色に光る何かが見えた。
「おい、行こうぜ、あそこ」
止めても山崎が聞くわけはなく、わたしたちは夜店通りを外れて人気の無い森の中へ入っていったのだった。
「この辺だったんだけどな……」
五分ほど経っただろうか。わたしたちは森の中心部へ向かって歩いていた。人気が消えたあとに祭りの喧噪も消えて、月の明かりだけがわたしたちの周囲を照らしていた。
「あの、もう戻りませんか」
「なに、びびってんのかこんちゃん。こんちゃんは可愛いなあ、このこの」
わたしはわたしで、特に怖くもなんともなかったのだが、ひとつだけ気になる異物がどうしても視界に入るのが、少しだけうっ、と思った。
「…… 井戸がある」
わたしたちの目の前に現れた割と本格的な井戸は、何やらそれっぽい予告めいた陰惨な雰囲気を携えていた。金剛寺が「ひゃっ」と短い声を上げたせいで山崎がひたすらに笑い転げていたのだけれども。
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